いいがやクリニック - 目黒区緑が丘、泌尿器科・内科・外科・皮膚科

「妻を看取る日」の垣添忠夫先生をお招きして

2011.06.27UP

去る5月25日、目黒区医師会学術講演会に垣添忠生先生をお招きして、講演「妻を看取る日」の座長をさせていただきました。

先生は世界でも5本の指に入る膀胱癌治療の大家であり、私も、国立がんセンター泌尿器科医長時代の先生による膀胱癌の論文を熟読していました。その後、同センターの総長になられてからも、先生は年間300編の英文論文を読まれていたといいます。真の「癌治療の最先端」を担っておられたのです。

そのような先生が、癌に冒された奥様の最期を看取る経験をされ、2009年に書籍「妻を看取る日-国立がんセンター名誉総長の喪失と再生の記録-」を刊行なさいました。

そこに綴られていたのは、自宅で看取った充足感、その後に襲ってきた喪失感、酒浸りの毎日・・・そして、立ち直ってきた心と肉体の相互作用。ぜひとも、目黒区医師会会員にこの「再生の記録」と「在宅で看取る充足感と困難さ」を伝えたく、お招きした次第でした。

実際の先生は、想像以上に「自分に厳しく、部下の面倒見がいい」理想的な元国立がんセンター名誉総長であり、また「奥様に優しい」ご主人でもありました。

「最期の瞬間、奥様が手を握り返した感触が、その後の再生の原動力となった」こと、「後悔しない人生を歩んできたし、これからも歩み続けることで、亡くなられた奥様がきっと喜ぶであろう」ことを、お話しくださいました。奥様は今も先生にとってスピリチュアルな存在であり、いつもポケットに奥様の写真を入れ て「今日も頑張ってくるからなぁ」と話しかけていらっしゃるそうです。

添い遂げた連れ合いだからこその、最期の充足感、そして喪失感。悔いなき人生だからこその亡くなられた奥様からのスピリチュアルな励まし、大変参考になりました。

控え室でお話ししたところ、東北で震災に遭われた方々を大変心配なさっていました。実際に東北へ行って避難所生活を送っている方々にお会いになり、その我慢強いことに心動かされたと同時に、苦しみや悲しさを心の奥底にしまっている様子を案じておられたのです。

これからも先生のますますのご活躍を、願ってやみません。また、自分の診療においても、忙しさのあまり、つい雑になりそうなときには、先生のおっしゃった「後悔しない人生」を思い出して、自分への戒めとすることにいたしました。

医療からみる放射能の考え方

2011.03.28UP

東北太平洋沖地震にて被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。

史上類を見ない地震と津波によって起きてしまった原発事 故。それによる放射能の恐怖は、誰であれ他人事ではありません。新聞記事やテレビを見ていると、専門の先生方はその影響を胸部X線撮影やCTスキャンと比 較して解説されていますが、医療従事者である私でさえ、曖昧でピンとはきません。

その原因を考えるに、「放射線の単位の定義の問題と、人体への影響の定義の問題がはっきりしていない」からだと思われます。そこで、以下に日々の診療の経験と教科書、文献を紐解いて、理解できたことを説明させていただきます。

一般には、リニアック(直線加速器)でX線を用いて放射線治療をする際には「Gy(グレイ)」という単位を用います。Gyは、単位質量(Kg)あたりに吸収するエネルギー(Joule)を表しています(Joule/Kg)。なお、前立腺癌治療の際には、45〜84Gyを照射します。また、胸部正面X線撮影 の際には、約0.05mGyを照射します。

一方、放射線安全管理の観点からは「Sv(シーベルト)」という単位を用います。これは、治療ではなく「検査」において「患者さんがどれだけ被曝したか、医療従事者がどれだけ周囲に散乱する放射線(散乱線)を浴びたか」を表す単位です。
一般人の被曝許容量は年間1mSvまで、医療従事者は年間50mSvまでと、法令で定められています。そこで我々は、累積被曝量を計測するために、胸にフィルムバッジをつけてチェックしています。

Svには「局所の確定的影響」を示す「等価線量」と、「人体全体の確率的影響」を表す「実効線量」が用いられます。
「確定的影響」とは、「一定量の放射線を受けると必ず現れる現象」です。脱毛や白内障、最終的には死亡もそのひとつです。つまり、福島第一原発で足下の水から被爆された作業員の方々も、この等価線量が大きかったことで皮膚炎が起こったと考えるわけです。
一方、「確率的影響」とは、「放射線を多く被曝するほど、将来、影響が現れる可能性の高い現象」を言います。例えば癌や白血病などです。

X線の場合、「等価線量」ではGy=Svとなりますが、「実効線量」ではGy=Svとはなりません。受けるダメージの大きさは臓器によって違い、生殖器、脳、造血器はその影響が大きいからです。従って、胸部X線撮影を例にとると、「等価線量」は0.05mSvですが、「実効線量」は0.03mSvとやや少 ないのです。

また、この事故ではX線の他に「放射性同位元素」も拡散されています。「ヨード(I)131」と「セシウム(Cs)137」です。

いずれの放射性同位元素も、その単位には、放射能の量を表すBq(ベクレル)が用いられます。1Bqとは「1秒間に1つの原子核が崩壊して発生する放射能の量」を言います。ちなみに、昔はCi(キューリー)という単位を用いていました。
このBqとSvの関係は、放射性同位元素によって異なります。ヨード131の場合、「1Bq=0.022μSv(マイクロシーベルト)」、セシウムの場合は、「1Bq=0.013μSv」となっています。

「ヨード131」は、バセドー氏病、甲状腺癌の治療のために内服されるβ線です。具体例を示すと、バセドー氏病の治療には500MBq、甲状腺癌では3GBq(3,000MBq)以上のヨードを内服します。

また、「セシウム137」も以前は放射線治療に用いられていたγ線です。リニアックが出現するまでは、コバルト(Co)60が主流でしたが、それよりさらに前は、セシウムの外照射が行なわれていたのです。そして、現在イリジウム(Ir)192で行なわれている腔内照射にも、以前はセシウムが用いられていま した。

セシウム137は、K(カリウム)と同様な分布を示し、放射されてから体外に排泄されるまで150日ほどかかります。また、放射線が元の半分程度に弱まるまでの期間である「半減期」に30年も要するため、決して内服はしません。ちなみに、60年経ったら放射能が0になるか というと、さらに半分(元の1/4)になって残ります。

いかがでしょうか。医療においては比較的身近と思われていた放射線ですが、原発事故となると、こんなにも大騒ぎになってしまい、少々驚いています。

もちろん、上で言う「確率的影響」を考えてのことだとは思いますが、皆さん、もっと冷静に・・・というのは難しいことなのでしょうか?

以上、簡単な説明ですが、今後ニュースなどの情報を見る際の参考になれば幸いです。

※本記事の初出に間違いがございました。

『リニアック(線形加速器)』と記述しておりましたが、正しくは『リニアック(直線加速器)』となります。

また、『ヨード131の場合、「1Bq=0.022μSv(ナノシーベルト)」』
と記述しておりましたが、正しくは
『ヨード131の場合、「1Bq=0.022μSv(マイクロシーベルト)」』
となります。
いずれも現在、記事本文内の記述は訂正済です。

皆様にご心配、ご迷惑をおかけいたしましたことをお詫びし、ここに謹んで訂正いたします。

ハイリスク限局性前立腺癌の治療

2011.03.14UP

去る3月10日、慈恵医大泌尿器科学教室主任教授頴川晋先生のご講演を拝聴しました。

現在もっともホットな話題として、集学的治療(手術、投薬、放射線治療などを組み合わせた治療)によって、EROTC(無作為試験の一種)でも有効なデータが出てきたことを述べておられました。

ネオアジュバント(手術や放射線治療の前に行なわれる補助治療)としてのホルモン療法、放射線療法および小線源療法(癌の内部に小さな放射性物質を入れ、内部から照射する治療法)、さらにホルモン療法2年間によって、生存率の大幅な改善が認められたということです。もちろん、手術および外照射、そしてホル モン療法というような「集学的治療法」の重要性が指摘されました。

また近いうちに、精巣、および副腎から発する男性ホルモンを遮断するだけでなく「完全に血中男性ホルモン値をゼロにする」新薬が発売されること、分子標的療法もアメリカでは既に使用されていること。
さらに、遺伝子治療も認可されていることなどが、話題に上りました。ただアメリカでも、遺伝子治療には一千万円もの費用がかかることが問題になっているようです。

日赤医療センター 冨田 京一部長から陽子線治療(水素/炭素の原子核などの粒子を利用した放射線による治療)に関する質問も出ました。
またアンダードーズ、つまり投薬量が過度に少ない場合だとがんは再発しやすいことが指摘されました。この補足として、東京医療センター斉藤史郎部長からは、視察されたアメリカのプロトンセンターが金儲け主義であるという批判もあり、そしてやはり、腫瘍の形に合わせて照射するIMRT(強度変 調放射線治療)が主流であることも指摘されていました。

小川修教授のご講演を拝聴して

2011.02.28UP

去る2月5日、慶應義塾大学医学部泌尿器科教授 大家基嗣先生のお計らいによって、京都大学医学部泌尿器科教授、小川修教授のご後援「泌尿器科腫瘍の研究をとおして学んだこと」を拝聴いたしました。

小児の腎臓に多く発生するウィルムス腫瘍(腎芽腫)のインプリンティング研究。これについて、雑誌「Nature」に先生の論文が掲載されたのをきっかけに、研究心が自分自身だけでなく世界へ向かい、視野が広がったことを強調されていました。

先生は現在も、精力的に腎癌の遺伝子レベルの解析を行なっておられ、その成果を披露してくださいました。お話のすべてを理解するには至らないながらも、そのマインドには、十分すぎるほど刺激を受けたものです。

それと同時に、座長の労を取っていただいた大家基嗣教授の質問。ここでは詳細を控えますが、これにもたいへん感嘆いたしました。

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